2023.12.5
賃貸事務所(事業用物件)の原状回復について【コラム】
賃貸事務所を退去されるお客様より、移転先の提案と退去に伴う諸手続きのサポートのご依頼をいただきました。
ご移転先が概ね決まった段階で、貸主様へ退去通知を提示し、引越し準備、不用品回収、そして退去時に最も重要な原状回復工事の打ち合わせに入ります。
原状回復工事の工事業者様はビルオーナー様の指定業者による工事(B工事:費用負担は借主様)となることから、契約書の内容にもよりますが、借主様は相対的に弱い立場となり、工事業者様より高額な見積もりが提示され訴訟問題にまで発展することが実は多数あります。
特に、工事業者様がスーパーゼネコンの場合は、間に入る複数社の利益が乗り、市場価格から乖離した高額な工事費となってしまいます。
当社の場合は、ビルオーナー様、工事業者様には見積もり作成のための現地調査の時からお立会いいただき、原状の定義、復旧する商品のグレード、工事費単価の目線、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(※トラブルが多発する現状から消費者保護の観点で国交省が提示した原状回復に関する統一見解。)に定義される借主様の負担区分、負担割合をご理解いただいた上で、工事業者様に見積書を作成いただくようにお願いしております。
ビルオーナー様や工事業者様がガイドラインの存在を知らない場合も実際には多くあり、過去の原状回復に関する訴訟の判例の参照元とはなっているものの、普及していないのが現状です。
高額な見積書が工事業者様より借主様へ提示された後に、当社がガイドラインや積算単価資料を片手に大幅な値下げを要求するのではなく、事前に現地調査の際にガイドラインを含む前提の内容をご理解いただいた上で見積書を作成いただくことが、円満に合意形成を図る上で大事なことと認識しております。
明渡し日に間に合わない場合、借主様はビルオーナー様より遅延損害金等を課されてしまう可能性もあります。
一般的に、コンサルタントは原状回復工事見積額の値下げ幅を顕在化させることで実績をアピールしがちですが、期日が明確に決まっている状況下において、迅速に工事内容・工事費単価を精査し、円満に協議を進めながら着実に合意点に達することを目指します。
国交省のガイドラインは、賃貸住宅にしか適用されないため賃貸事務所は対象外である、との情報が同業者間やネット上でも散見されますが、最高裁含む過去の判例により、賃貸事務所もガイドラインの対象となることもあります。
また、原状回復工事に関する内容は、不動産会社が表立って調整すると弁護士法に規定される「非弁行為」とみなされてしまう可能性があるため細心の注意が必要です。
細かな調整が求められる場面において、毎回とても多くの気付きと学びがあります。
今後、円安などによる建築資材の物価高、2024年より週休2日制導入による建設業の労務費高騰など、借主様から預かっている敷金では原状回復工事費を担保できない状況が多発する可能性もありますが、どんな局面でも様々な立場の方々と協力し、進められるよう1つ1つ丁寧に向き合っていきたいと思います。