宗教法人所有不動産の売却仲介について【コラム】

宗教法人が所有する不動産の売買(主に売却)をお手伝いさせていただき、通常の取引とは異なる点について要点のみをまとめましたので、ご参考いただけましたら幸いです。

【宗教法人法について】

宗教法人が所有する財産について、売買する際は宗教法人法の手順に沿って進める必要があります。宗教法人の財産について、所有権は宗教法人にありますが、信者の方々より寄進された財産であり、また、土地建物は信仰の場として使用されております。宗教法人が自由に処分されてしまうと信者の方々が困ってしまうことから、通常の不動産売買と異なり、宗教法人法により主に下記3つの手順が追加で必要になります。

①責任役員決議による承認

②公告

③包括宗教法人の制限

所有する不動産を売却される際は、公告等を一定期間行う必要があるため、宗教法人法や宗教法人が定める規則に従ってスケジュールを調整する必要があります。また、宗教法人から不動産を購入される買主様に関しては、売主様である宗教法人が宗教法人法による適切な手順に従っていない場合、取引自体が「無効」となってしまう可能性があるため(宗教法人法24条)、仲介業者の立場としては、宗教法人法に定める適切な手順に沿って合意形成を築いていく必要があります。

【①責任役員決議による承認】

責任役員会議での承認が必要になります。(宗教法人法19条)

不動産を売却する宗教法人は、承認があったことを証する書面(責任役員会議事録)を保管する必要があります。

【②公告】

◆公告期間

宗教法人は、不動産を売却する1か月以上前に、信者その他利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければなりません(宗教法人法23条)。

宗教法人規則で定める公告期間(一般的に7日間もしくは10日間が多い)を、不動産売却すを実施する1か月前までに終了しなければなりません。

民法の規定により、「10日間」の公告期間の場合は、正味10日間(24時間×10日分※7日の場合は24時間×7日分)という意味であり、公告文を掲示した日と取り外した日は10日間には含まれないため、実際には掲示してから取り外すまで12日間(※7日の場合は9日間)を要することになります。

※公告期間が1日足りず、売買契約が無効となった判例もあるため、公告期間については注意が必要です。

【参考例】※規則が10日間の場合

4月1日 公告を掲示(初日不算入)

4月11日 公告期間満了日

4月12日 公告取外し可能/1か月の据置期間開始(宗教法人法23条)

5月11日 1か月の据置期間満了(宗教法人法23条)

5月12日以降 不動産売却可能

◆公告証明書

宗教法人法、宗教法人規則に従って適正に公告が実施されたことを証する公告証明書を保管する必要があります。

【③包括宗教法人の制限】

規則の内容は各宗教法人によって異なりますが、規則に定められている場合は、上記①に加えて、包括宗教法人や宗派代表役員(総長)の承認が必要となる場合があります。

もし必要な場合は、③公告の期間(1か月)とは別に期間を要する場合もあります。

また、宗教法人法の定義する「境内地」に該当する場合(財産目録に対象の不動産に関する記載がある場合など)、包括宗教法人の承認が必要としている規則が多いため、後述の「境内地」の定義の違いをご参照いただけますようお願いいたします。

※包括宗教法人や宗派代表役員の承認を得るまでに時間がかかる場合があるため、上記②の公告期間も含めて、契約締結前に買主様との事前の調整が必要になります。

【登録免許税・不動産取得税の非課税措置とその他税金】

宗教法人が不動産を購入する際は、登録免許税、不動産取得税の非課税措置について申請する必要があります。

◆登録免許税の非課税措置

引渡し(所有権移転登記)前に、都道府県庁の担当官へ連絡し、担当官による現場立会い調査を実施した上で、非課税証明書(都道府県知事が発行)が発行されます。

※非課税証明書は引渡し前に取得する必要があるため、発行にかかる日数も契約締結前の要確認事項となります。

担当官による現場立会い調査の際は、引渡し前に実施されるため、売主様の許可を得る必要があります。また、担当官は現況主義に基づき判断されることから、営利目的の看板等が設置されている場合は、事前に撤去することが望ましいとされております。非課税証明書の取得に際しては、売主様との密な調整が求められます。

※買主である宗教法人の非課税証明書の取得のために、売主が協力する旨を契約条項に入れておくことが望ましいと考えます。

引渡し時に、所有権移転登記を申請する司法書士先生経由で非課税証明書を法務局へ提出することで、登録免許税は非課税になります。

◆不動産取得税の非課税措置

不動産取得税の非課税措置については、

所有権移転登記後(引渡し日より約2週間後)に遅滞なく、非課税証明書を添付し、都道府県税事務所へ非課税申告を行います。

◆売却時の固定資産税精算について

非課税措置を受けている場合は評価額0円になるため、買主様との引渡し時の固定資産税の精算は生じません。

◆収入印紙について

宗教法人も契約書へ貼付する収入印紙は課税されます。

売買代金・手付金受領の領収書へ貼付する収入印紙は不要になります。

【「境内地」の定義の違い】

宗教法人が所有する土地、という意味合いで一般的に使用されることが多いですが、宗教法人法で定義される境内地と、不動産登記法で定義される境内地の定義は異なります。

◆宗教法人法の境内地

宗教法人法では「宗教の教義を広め、儀式行事を行い、及び信者を教化育成する」という目的のために必要な「当該宗教法人に固有の建物及び工作物」を「境内建物」、当該目的のために必要な「当該宗教法人に固有の土地」を「境内地」と定義づけています。(宗教法人法2条、3条)

宗教法人法 第2条(宗教団体の定義)
 この法律において「宗教団体」とは、宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする左に掲げる団体をいう。

一 礼拝の施設を備える神社、寺院、教会、修道院その他これらに類する団体

二 前号に掲げる団体を包括する教派、宗派、教団、教会、修道会、司教区その他これらに類する団体

宗教法人法 第3条(境内建物及び境内地の定義)

 この法律において「境内建物」とは、第1号に掲げるような宗教法人の前条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の建物及び工作物をいい、「境内地」とは、第2号から第7号までに掲げるような宗教法人の同条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の土地をいう。

一 本殿、拝殿、本堂、会堂、僧堂、僧院、信者修行所、社務所、庫裏、教職舎、宗務庁、教務院、教団事務所その他宗教法人の前条に規定する目的のために供される建物及び工作物(附属の建物及び工作物を含む。)

二 前号に掲げる建物又は工作物が存する一画の土地(立木竹その他建物及び工作物以外の定着物を含む。以下この条において同じ。)

三 参道として用いられる土地

四 宗教上の儀式行事を行うために用いられる土地(神せん田、仏供田、修道耕牧地等を含む。)

五 庭園、山林その他尊厳又は風致を保持するために用いられる土地

六 歴史、古記等によつて密接な縁故がある土地

七 前各号に掲げる建物、工作物又は土地の災害を防止するために用いられる土地

◆不動産登記法の境内地

一方で、「宅地」「畑」などの地目を定義する不動産登記法では、上記宗教法人法第3条2号及び3号のみが該当(不動産登記事務取扱手続準則68条13号)し、宗教法人法の定義する「境内地」よりも相当に狭義な意味合いとなります。

つきましては、不動産登記法による登記上の地目に関係なく、宗教法人法の定義する「境内地」に該当している場合は、宗教法人の規則に従って適切な手順で売却を進める必要があります。

◆地目変更登記申請について

宗教法人が土地を購入した後に、所有権移転登記後(不動産取得税の非課税措置の申請と同じ時期)に地目を「境内地」へ変更申請が可能です。

法務局へ地目変更登記申請を提出した後、担当官が現地を視察し(立会いが無い場合もあり)、境内地に該当する(宗教法人法第3条2号及び3号)と認められた場合は遅滞なく地目変更が行われます。

登録免許税の非課税措置と同様に、担当官は現況主義に基づき判断されることから、営利目的の看板等が設置されている場合は、事前に撤去することが望ましいとされております。

※登録免許税の非課税措置の際とは異なり、引渡し後になるため、状況次第ではありますが大きな問題は無いと思料いたします。

少し長くなってしまいましたが、お役に立てれば幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

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